卒業生紹介

久保田美法

2019年度 予科前期コース
2020年度 予科後期コース
2021年度 本科特別コース

Q1. アルスシムラに入学したきっかけは何ですか?

“聴く”ことが基本の仕事をしていますが、日々の中で、自分の感覚を閉じて過ごしていると感じるようになり、自然の声に耳をすますことを大切にされている場に身を置いて、新しく耳がひらかれたらと思いました。

Q2. あなたの「いま」を教えてください。

大学で、若い学生たちと、普段何気なく感じている様々な思いや感覚に耳を傾けることを通して、人のこころというものについて考えています。こころでこころを感じる心理学というものを考えたいなと思っています。

Q3. 在学中の学びの中で、「いま」に活きていることを教えてください。

アルスシムラの、草木からどんな色が、私たちの手からどんな織りが表れてくるかを楽しみに待ち、表れてきたものを温かく迎え入れる雰囲気がとても印象的でした。また、糸に触れる時に自然と「この子」と呼びかけられたり、糸が絡まると、“あぁまただ‥”と私は思ってしまうところを、先生方は「よくあることなんです」と、当然のこととして、向かい合っておられる姿に、ハッとさせられました。私は糸を自分の思い通りになる“物”として見ていたのだと思いますが、「この子」は愛おしんで、心通わせる相手でした。糸を「糸」としか呼べない自身の心貧しさや暴力性を思い、そのように物としか見れないまなざしは、人や自分の心をも殺してはこなかったか、とも思わされました。 

ただ、そんな私にも、草木から染められた糸は、どれもすっと心に染みてくるものでした。特に感じたことは、一つの色は決して均一で平面的なものではなく、陰影や微妙な色合いがあり、それらは心に直に触れてくるものであるということでした。また経糸と緯糸の交わりから織り成される色を感じ、隣り合う色によって、見えてくる色が異なることもとても楽しく、ただただひたすら織りたいと思わされる時間でした。様々な色糸を重ねていくと、濁ってきますが、草木から頂いた色は、濁っても、どこか澄んでおり、またあるかなきかの微かな色が、織っている中で、思いもかけず響いていて、それに支えられていたと気づかされることもあり、何か救われるような思いをすることもしばしばでした。

アルスシムラで体験させて頂いたことは、微かな声の一つひとつに、その声の響きあいに、耳を傾けることの喜びと豊かさであったように思います。人のこころも自然の営みの中にあるというという、当たり前といえば当たり前のはずのことが腑に落ち、こころというものも、「人間」という枠組みの中だけではとらえられるものではないのだろうと感じています。

Q4. これから染織を志す人にメッセージをお願いいたします。

学生時代から志村ふくみ先生、洋子先生の作品や著書に惹かれていましたが、手先が不器用な私がアルスシムラに通うようになるとは、夢にも思っていませんでした。何気なく参加した最初のワークショップから、もうちょっと、もうちょっと…と思いが募って現在に至りますが、それくらい草木の色と、織るという営みは、実はとても身近なものであり、私たちの奥に眠る何かに触れるものなのだろうと思います。けれどもアルスシムラがもし染織に関する知識や技術の習得のみを目的とする学校だったら、私は入ることはとてもできなかったと思います。アルスシムラは、染織そのものの奥深さを教えてくれるとともに、その“こころ”をそれぞれが感じとることを重視し、その生かし方も、各人に委ねられているところです。この体験をどのように生かしていけるかは、まだ十分には見えていませんが、その種を頂いた感触は確かにあり、これからゆっくり育てていきたいと思っているところです。

織りあげた裂を自著の装丁へ
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