卒業生紹介

山内ゆう

2015年度 予科コース

2016年度 本科1年コース

Q1. アルスシムラに入学したきっかけは何ですか?

何も考えず、住む家だけを決めて神奈川から京都へ移住しました。そうしたところ、ふくみ先生のご著書を拝読してから憧れていた染織の世界への扉がすぐ近くで開かれていることを知り、学んでみたいと希求しました。

Q2. あなたの「いま」を教えてください。

島根県石見地方で、特産品の石州和紙を素材に、紙布織家として活動をしています。かつてこの地方で栄えた紙布の文化を再興することで、地域アイデンティティを取り戻せないか、ひそかに考えています。

Q3. 在学中の学びの中で、「いま」に活きていることを教えてください。

予科に入学したのは大学を出てから3年目で、まだ学生の感覚がいくらか残っていた頃のことです。
昔から読書が好きで、好奇心は旺盛なほうだったと思いますが、それでもやはり、学ぶといえば、学校で教科書を暗記することでした。そこは正解か不正解か、多少のグラデーションはあれど、基本的には白黒が明瞭な世界です。

しかし私が入った頃のアルスシムラでは、たまにプリントが配られることはあっても、正解の記された教科書の類いはなく、講師の先生方も、「これくらい」、「こんな感じ」という指導の仕方をされるので驚き、少し困惑したりしました。しかしそれは、決して先生方の知識が足りないだとか、教えることに慣れていないということではなく、染織の持つ性質はそういうふうにしか伝えられないための言葉だと、間もなく自分で体感することになります。
その性質とは、染織が常に「不安定なもの」を相手にしているところに起因します。たとえば、染色の材料の植物は生育環境や時期によって出す色を変え、それを受けとめる一本の長い糸の中にも太い細いがあるのです。さらにそれらを、私という日々不安定な存在が扱うことで、同じものや場面に出逢うことは一度限りと言って良いかもしれません。

そして、そういった不安定なものに対峙したとき、教科書のように明瞭な言語に無理矢理押し込むのではなく、ありのままに受け取り、持てる感覚すべてを総動員して記憶する…。それがアルスシムラで学んだ染織への基本姿勢だと思っています。

アルスシムラを卒業してから早いもので5年が経ちますが、そのとき身につけた姿勢は今なお健在です。そして、その学びのおかげで、すべてが一度限りの染めと織りに全身全霊で向き合い、これからも胸を高鳴らせ続けることでしょう。
はじめて染織に触れた場が、アルスシムラでほんとうに良かったです。

Q4. これから染織を志す人にメッセージをお願いいたします。

アルスシムラでの体験はとても楽しいものでしたが、これを仕事にして食べていく力量は自分にはないと思っていました。
それなのに、なぜでしょうか。卒業後、見えない糸に引っ張られるかのように、島根県の染織工房に入門し、2年間研修したあと独立しました。

独立してすぐの頃、思い詰める私に、染織家の先輩が「やめても良いのよ」と声を掛けてくださいましたが、その眼差しは確かに、「やめても立っていられるのなら…」と仰っていました。
そのとき、最初は程々の付き合いだったはずの染織にすがって生きる己の姿に気が付き、そして、それをやめては立っていられないだろうと感じました。
おかしな話ですが、いつか染織がなくとも自立できる人間になるため、私は今、染織に向かっています。

経糸は問い。緯糸は答え。
ひとつとして同じ織りはなく、そこに正解などありません。

目の前に流れてきた問いに、どのような答えを織り入れたいですか。

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