卒業生紹介

藤崎仁美

2015年度 予科前期コース

Q1. アルスシムラに入学したきっかけは何ですか?

生き方に悩んでいた時期、『しむらのいろ』作品展に出会い、またドキュメンタリー番組も拝見し、アルスシムラの存在を知りました。自然への深いまなざしとともにある染織へ憧れて、入学を決めました。

Q2. あなたの「いま」を教えてください。

アルスシムラ卒業後に山梨県富士吉田市へ移住し、機械のジャカード織の職人として働く傍ら、藍や紅花を畑で育て、草木染め作品を作ったりしてきました。この春、6年続けた機械織りのお仕事から卒業しました。

Q3. 在学中の学びの中で、「いま」に活きていることを教えてください。

私は、生き方に迷い悩んでいた人生の転機の時期に、アルスシムラと出会いました。予科クラスでは「心の問題として織をする」ために、皆で草木で染めた絹糸で、向き合いたいことをテーマに「裂」を織りました。植物たちが見返りもなく与えてくれた、色という贈り物。その美しさを前にすると、だんだんと自分の心も素直に拓いていくのを感じました。そして織りが始まる際、洋子先生から「失敗したと思っても、織物をほどこうとしないこと。人生と一緒、取り返そうとしない。次に合う色を入れればいい、ここを生かすように次を織っていったらいい」というお言葉をいただき、目が覚めるような思いをしました。そして実際に織りはじめると、織るたびに自信のない自分が目の前にあらわれてくるようで、自分を受け入れられない苦しみで進めなくなったことがありました。そんな時、先生方や仲間たちに暖かく支えられ、また「出てきたものがそのままの私なのだ、それが今の自分であり実力なのだ」と理想やこだわりを手放すと、ようやく落ち着いて織りはじめることができました。

自分に期待しすぎるのではなく、卑下するのでもなく、ただ等身大の自分で、頭ではなく手を動かしていく。そして無心になっているうち、「裂」を織りあげることができました。それはとても、私らしい裂でした。人生という経糸に、どんな色糸を入れていくのか。どんな一日があっても、それを生かすように日々を重ねていけたら、自分らしい織物が出来上がる。それはきっと美しい。アルスシムラでの、草木に耳を傾ける姿勢と、真摯に生きることへ向かう学びの共同体のおかげで、人生の指針と歩み続ける勇気をいただけたように思いますし、今でも私のなかに残っています。

私はこれから富士北麓の草木とのかかわりを大切にしながら、草木の色を通して「地球はこんなにも美しい」ということを伝えたい、そして「心の染織」を実践していきたいと思っています。

Q4. これから染織を志す人にメッセージをお願いいたします。

私はアルスシムラに通ったことで、人生観が大きく変わりました。草木に深いまなざしを向け、うつくしい色に感動し、心で織りと向き合うこと。先生方が真摯に寄り添ってくださること。そして様々な尊い想いをもった仲間と出会い、ともに、染織を通して学びを得られたこと。心を大切にする芸術学校だからこそ、それぞれの人生の輝きや想いが交錯するような、人生の扉を開いてくれた場所でした。

一番最初の体験、というのは、本当に大事だと思っています。染織の原風景が、この、アルスシムラという芸術学校であったということがどれほど幸せなことか、とずっと感じてきました。変化と情報の多い混沌とした世の中でも、人生のなかにこうした学びの体験があるということが、どれほど価値のあるものかと思います。

それぞれの場所から一歩出て、学びのために集い、草木に出会い、心と体で織っていく体験。必要な方に、体験してもらえたら嬉しいです。

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